コレステロール
女性にとって(男性にとっても)、もしかしたら一番見たくない単語かもしれませんね。「悪玉コレステロール」という言葉や、スーパーなどでもコレステロール0(ゼロ)という文字が躍る。
今やすっかり”コレステロール=悪”というレッテルを貼られてしまっているが、ちょっと待ってほしい.
本当に”コレステロール=悪” なのか。
コレステロールの「ステロール」というのは、ステロイドの一種であり、「ステロイドアルコール」という意味を持つ。
はるか昔18世紀に発見されたコレステロールは、決して人間の体にとって悪影響しか生まないわけではないという事をご存知だろうか?
実は体内でも合成されるコレステロール
体内のコレステロールというのは、実は食品由来のものは少なく主に人間の体内で合成されるものである。そのほとんどが肝臓や皮膚で合成され、ヒトの体内にあるコレステロールのうち、1/3が脳に集中している。
また、体内にはコレステロールの量を一定に保つ調整機能があり、たとえ食事からコレステロールを摂取しなくても、脂肪や炭水化物を摂取すれば体内でコレステロールに変換される。
ホルモンはコレステロールから作られる
体内にて分泌されるホルモンは、”その全てがコレステロールから合成される”という事は、ほとんど知られていない。
代謝機能や免疫に影響する「副腎皮質ホルモン」や、女性らしさ、男性らしさのもとになる「性ホルモン」も、その「全ての原料はコレステロール」なのである。
“善”にも”悪”にもなるコレステロール
“善玉コレステロール” や “悪玉コレステロール” という言葉を聞いたことがある人がほとんどだと思いますが、実際のところ、何が”善”で何が”悪”なのだろうか?
皆さんも健康診断などで血液検査の結果を見たことがおありだと思うが、そのなかで「HDL」と「LDL」という項目がある。
その「HDL (High Density Lipoprotein Cholesterol)」を”善玉コレステロール”、「LDL (Low Density Lipoprotein Cholesterol)」を”悪玉コレステロール”と呼んでいる。
コレステロールとタンパク質が複合体となったものを「リポタンパク(Lipoprotein)」と言い、その比重(Density)の違いによって人体に与える影響が違う。
HDLもLDLも共に血管を流れるコレステロールの一種なのだが、HDLが血管内のコレステロールを肝臓に運ぶ機能があるのに対し、LDLは肝臓のコレステロールを全身に血管を通して運ぶ働きをしている。
このため、両者のバランスが取れてるうちは良いが、いったん悪玉であるLDLが多くなってしまうと、どんどん血管内におけるコレステロール濃度が上がってしまい、結果的に動脈硬化や冠動脈疾患などの
高コレステロール血症由来の病気を起こしてしまう。
だが、”善玉コレステロール”と”悪玉コレステロール”という表裏一体の関係と同じく、高コレステロール血症に対し、「低コレステロール血症」という症状があることは知られていない。
日頃のテレビなどメディアでも、高コレステロール血症が話題に上っても、低コレステロール血症が上ることは極稀である。
ここで、なぜコレステロールが”善玉”と”悪玉”に分かれてしまうのかを説明しよう。
何事も「バランス」が大事
血管を巡るコレステロールであるリポタンパクはコレステロールとタンパク質の割合によって善玉と悪玉に分けられる。摂取するコレステロールが多く偏ってしまうと、リポタンパク質内のコレステロールの比重が
上がってしまい、結果タンパク質の比重が下がりLowDensityLipoprotein(タンパク質の比重が小さい)コレステロールとなってしまう。
逆に、リポタンパク内のコレステロール比重が下がる要因のひとつとして、お酒の飲みすぎがある。
アルコールが体内に入ると、肝臓はアルコールを分解して脂肪酸に変換する。少量のアルコールであれば、結果肝臓で合成されるコレステロールが減少し、HighDensityLipoprotein(タンパク質の比重が大きい)コレステロールが
多く生成される。よく、「少量のアルコールは体にいい」と言われるのはこれに起因している部分が大きい。
1日に日本酒1~2合程度の酒を飲んでいる人は心疾患のリスクが低くなるという研究結果もアメリカで出ており、適量のアルコールを摂取することで善玉コレステロールが増え、血中コレステロール値が正常に保たれるのである。
一般的に善玉コレステロール値は悪玉コレステロール値より高いことが望ましいとされており、そもそもこれが”善玉” “悪玉”と呼び分けられる由縁である
だがしかし、酒を飲みすぎると別の弊害が出てくる。
アルコール摂取量が過剰になると、肝臓の機能がアルコールの分解に偏ってしまい、脂肪の分解力が低下してしまう。結果、血中の脂肪濃度が高くなる「高脂血症」の原因ともなる。
また、アルコールは1gに対し7calのエネルギーがあり、摂りすぎるとエネルギー過剰となって中性脂肪や血糖値が上がり、肥満や糖尿病の原因となる。
さらに、酒を飲むときに欠かせない「おつまみ」にも、コレステロール値の高いものが多く、スルメなどのイカやサラミなどは高コレステロール食として過剰摂取することは推奨されていない。
余談であるが、日頃使用しているパソコンやスマホに利用されている「液晶」の原料にはイカが含まれているという事を聞いたことがある人はいるとおもう。
実は、液晶の原料はコレステロールであり、高コレステロールのイカの内臓からコレステロールを採取して原料としているのである。
話を元に戻すと、血中コレステロールのバランスがHDLに振れ、血中のコレステロール値が下がる「低コレステロール血症」によって引き起こされる症状は、副腎皮質ホルモンの生成不全による
甲状腺機能亢進症、慢性肝炎、肝硬変、腎疾患などがある。また、免疫の低下により感染症やがん、胃潰瘍や貧血症などでの死亡率が近年上昇してきており、あまり低コレステロールに偏った食生活も弊害をもたらすことが分かっている。
冒頭でも記した通り食品由来のコレステロールよりも、肝臓で合成されるコレステロールの方が人体における割合が高いのだが、そのコレステロールの原料となるのが、
肉の脂身などに動物性脂肪に多く含まれる「飽和脂肪酸」や、マーガリンやショートニングなどの人工脂肪である「トランス脂肪酸」である。
近年、食肉の主な飽和脂肪酸である「パルチミン酸」にはコレステロールの上昇作用がない可能性が指摘されたり、「オレイン酸」などのLDL値を下げる脂肪も含まれていることが分かってきており、
食肉に対してはそれほど過剰に意識する必要はないとされている一方、トランス脂肪酸については一昔前にアメリカで「トランス脂肪酸問題」が取り上げられ、当時外資系だったあるファーストフード店では調理に使用する
油をすべてトランス脂肪酸を含まないものに入れ替えるなど厳しい規制が敷かれる傍ら、日本では規制も表示義務もなく、摂りすぎが問題となっている。
アメリカでは、卵や魚卵などの高コレステロールの摂取量を設けていたガイドラインを「食事から摂取するコレステロールと血中コレステロールの間に明確な関連を示す証拠がない」として撤廃しており、
その反面、体内でコレステロールの原料となる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸のガイドラインにはかなり厳しい制限を設けている。
逆に、青魚に含まれるDHAやEPAなどの「不飽和脂肪酸」には、LDLの値を下げる働きがあるとされ、摂取することが推奨されている。だがこれも不飽和脂肪酸の一種「リノール酸」は酸化しやすく、
過剰摂取は逆に肝臓がLDLを取り込む働きを阻害して血中LDL値が逆に上昇するという研究結果が出始めている。何事もバランスが大事である。