梅雨が明ければ、夏真っ盛り。気温が高くなるほど人は開放的になると言われますが、真夏の海に出かけると、大勢の仲間とビーチで賑やかに遊んでいる人たちをよく見かけます。ビーチに限らず、クラブやパーティーに集まっては、大人数でノリよく過ごす人たちは、パーティーピープル略して「パリピ」と呼ばれるようになり注目されています。
流行に敏感で消費意欲も旺盛なパリピは、トレンドの火付け役として、密かに企業からも熱い視線を注がれているとか。そんなパリピの消費行動に着目しているのが、博報堂若者研究所の原田曜平(はらだ・ようへい)さん。今年4月に刊行された『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(新潮新書)の著者でもある原田さんに、パリピの実態と可能性について聞きました。
パリピは迷惑な人たち?
――「パリピ=ノリがいい人たち」という印象ですが、実際にはどのような特徴があるのでしょう?
原田曜平さん(以下、原田):基本的に、直感型の人やSNSに投稿するのが好きな人が多いですね。もちろん普段会社にいるときに、ウェイ!ウェイ!やっているわけではありません。かといって、二重人格というわけでもなく、自分の中に「パリピ」と「常識ある社会人」の両方が共存しているんだと思います。
とはいえ、ハロウィンのゴミ問題をはじめ、大声で騒ぐこともあるので、周囲に迷惑をかけている可能性は高く、いろいろな問題をはらんでいらっしゃる方々ではありますね。
“異質なもの”に寛容じゃない社会だからこそ
――実際のところ、パリピの奔放さに眉をひそめている大人も少なくありませんね。
原田:そうですね。僕自身もパリピを批判している大人を批判するつもりは一切ありません。その一方で今の日本社会には、異質なものに対して寛容でない部分がすごくあると感じています。例えば、電車の中で赤ちゃんが泣いていると「うるさい! 家にこもってろ!」と怒鳴る大人がいるわけですが、そんな社会はどうなのかなあ、って。
パリピの迷惑行為を肯定はしませんが、同時に寛容に受け入れるべき人たちだとも思います。すごく衝動的で刹那的な生き方をしているように見えるかもしれませんが、将来が不安視される世の中で、今を全力で楽しもうとしている若者が否定されるべきではないのでは、と。
それに、パリピは消費意欲が旺盛でエネルギーもありますから、日本経済を少なからず支えている面もあるんです。だから、年金や医療費などで、若者に支えてもらうしかない中高年はもっと肯定的に見てもいいんじゃないでしょうか(笑)。
パリピ女子はハリウッドと韓流が好き
――ご著書によると、パリピ女子は、アメリカと韓国のカルチャーに惹かれる人が多いそうですが、それはなぜなのでしょう?
原田:ライフスタイル全般を支持しているんだと思います。日本の場合、アメリカからの文化的影響は戦後一貫してありますが、ネットの記事やSNSを通じて今やハリウッドセレブの情報はリアルタイムでどんどん入ってきます。そういうセレブをモデルにしたドラマ「ゴシップガール」もパリピ女子にウケがいいですね。
韓国の場合は、美容、音楽、ダンスなど、ある意味で日本よりも進んでいるジャンルがあるので、そこに魅力を感じているみたいですね。韓国のカルチャーは総じてきらびやかで派手。そういう点に惹かれているようです。
パリピより尖端的な「フィクサー」とは?
――さらに、ご著書では、トレンド伝播のヒエラルキーでパリピの上にいる「フィクサー」という存在についても言及されています。イノベーターでもあるフィクサーは、帰国子女や慶應生がなりやすいとのことですが、それはなぜなのでしょうか?
原田:これはあくまで確率論ですが、お金を使うほうが経験値も増やせますし、いろいろな情報も入ってきます。そうなるとパリピ的なセンスや感性は、財力に比例して磨かれていくわけです。
もちろん、すべての人がそうではないかもしれませんが、確率的にはお金がある人たちの方がイノベーターになりやすい。実際、フィクサーの子たちを見ていると、社会に出ても食いっぱぐれないだろうなと感じさせる教養や素養が備わっていますね。
パリピの消費行動は直感的
――パリピの心を掴むことができれば、ビジネス的には大きな可能性がありそうですね。ちなみにどのような業界がパリピを取り込みやすいのでしょう?
原田:イベントやファッションといった業界に、パリピは一番影響力を持っているでしょうね。でも、一見親和性がなさそうな業界でも可能性はありますよ。サングラス、ヘッドホン、ペットボトルなど、あらゆる分野の商品でパリピはトレンドリーダーになりうると思います。
――では、パリピにウケる商品をつくるにはどうすればいいですか?
原田:直感的に消費するという特徴があるので、まずは観察することですね。これはパリピに限った話ではないのですが、買う側は往々にして買う理由をうまく説明できないんです。だから、買う理由を尋ねるのではなく、注意深く観察して、考察してみるんです。
例えば、よくある調査ですが、パリピの顔の横にカメラをつけて、購買行動を観察してみるとか。そういう手法を用いてパリピの消費傾向を分析できるんじゃないかな。
――では、どのようにPRすればパリピの心に届くのでしょう?
原田:パリピは気に入ったら自発的にSNSで広めてくれるので、特別なPR手法を用いる必要はないですね。それより、まずは商品開発の時点でニーズをしっかり汲み取ることが大切です。「集団」というキーワードを中心に据えて、「まわりに広めたいような目新しさがある」「みんなで盛り上がれる」といった要素を盛り込んでいくことがポイントになるでしょう。