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1本出たくらいで「AV女優」を名乗らないで<親公認AV女優 裸になる娘とその親たち>

最近、増えている親が応援するAV女優。「カラダを売る仕事」をめぐる社会の価値観、親子の関係はどのように変化しているのでしょうか? 今回は、ノリで始めたAV女優の仕事にいつしか芽生えてきたプライド――。そこには働き者の母親の影響があるのかもしれません。

<今回の女優>
西内莉乃(にしうち りの:仮名)
25歳 北海道出身
母、兄の3人家族 両親は幼少期に離婚
156センチ スリーサイズ B88(D) W59H86
2011年に大手メーカーより単体デビューした実力派企画単体女優

すすきのキャバ嬢からなんとなくAV女優に

「1本だけで辞めようと思っていた」

 取材をしているとそんなセリフをしばしば耳にする。それも人気女優から聞くことが多い。誰かに強制されて出演したわけではない、かと言ってハッキリとした意思があったわけでもない。気付いたらベテラン女優になっていた、というパターンだ。

なろうとしてなるものじゃない。
AV女優は、なっていくものだ、と思う。

 今回取材した莉乃もそんな女優の一人だ。北海道から上京して早4年、大手メーカーで単体デビューした彼女は、現在はロリ系も痴女系もマルチにこなすキカタン女優として忙しい日々を送っている。

「始めたのは、完全ノリです、あはは」

 ミッドセンチュリー風のスケルトンチェアーとメラミン製の白テーブルが並ぶ部屋に莉乃の少し乾いた声が響き渡る。ガラス張りのドアの向こうでは、ドリンクメニューを携えた受付嬢がこちらの様子を伺っている。ここは某プロダクションの応接室だ。

「その当時、ほぼ毎月、女友達と1週間くらい東京に遊びに来てたんですよ。で、その子の幼なじみがこの事務所に女の子を紹介していて。いわゆるスカウトマンですね。その人から『東京に遊びに行くんだったら一回、面接に行ってくれない?』って頼まれたんです。まぁ〜、遊びに来ているときってヒマな時間多いし、気軽な気持ちで引き受けましたね。ちょうどそのときお金もなかったし、本当にやらなくてもいいや、行くだけ行って、あとで断ればいっか〜って」

 4年前の3月、物見遊山とばかりにやってきた莉乃と女友達はこの部屋に通された。

「実際に面接に来たら事務所は超きれいでおしゃれだし! しかもその場でスタッフの人に『じゃあよろしくお願いします』って言われて。こっちも『え、そんなすぐ決まるの!?』って感じで、『じゃあ…お願いします』って。押しに負けてしまいましたね。まあ、でも『最悪、(連絡を)シカトすればいいかな』くらいに思っていたんですよ」

 最初にAVに出演したのは友達のほうだった。企画作品に数本出演した友人を追うようにその3ヶ月後、莉乃もデビューした。21歳のときだ。当時彼女は、すすきのにある大手キャバクラに在籍し、撮影の度に上京した。

「当時は働きたくない病で。なんていうか浮き沈み激しかった。店の賞金レースで一番になったと思ったら次の月は出勤しないみたいな。そんな時期だったから、とりあえずお金がほしかったですね。『まあいっか〜1本くらいならバレないろう』って思ってました。で、やってみたら意外と…」

 そこでふと、莉乃は言葉を詰まらせた。その後に続く言葉が見当たらない。

「やってみたら楽しかった?」

 なるべく前向きな言葉を選んだ私がそう聞くと、莉乃は満面の笑みで

「楽しくないですよー──ーっ!」とおどけた笑顔を浮かべた。

「最初、泣きましたもん。もちろんカメラの前では泣いてないですけど、絡みが終わったら緊張の糸がほどけたのかな。あとやっぱ親のことが浮かんだし。でもこんなんで泣いているところを他人に見られたくないし、あたしって結構そういうところ負けず嫌いだから、すぐにメイクルームに行ってこっそり泣いててたけど、現場ではとりあえずみんな、よいしょ、よいしょって良くしてしてくれるじゃないですか。バレ? もうそんなの事務所の人に『絶対バレないよ!』な〜んてウマく言われてますよ! あはは。作品が出てすぐに本名を2ちゃんねるで晒されて地元の友達には即バレて、ふざけんな! って感じでした。まあ仕方ないですけど。あははははははは」

 あくまでもサバサバと明るい口調で語り尽くそうとする莉乃の勢いに、私は軽く圧倒されていた。

キレイで働き者のの母。でも寂しくて万引き、家出を繰り返す

 莉乃は札幌で生まれ育った。母親は21歳のときに莉乃を出産するも、夫のDVによりほどなくして離婚。莉乃は2つ上の兄と共に母方に引き取られた。

「お母さんは、めっちゃきれいな人。離婚してしばらくは化粧品の販売員やってたけど、あたしが中1のときに水商売を始めて、今も市内でスナックのママをやってます。すっごい働きものだけど、酔うと友達みたいに抱きついてきて、かわいいんですよ。でも元ヤンだから怒るとチョー怖い! 髪の毛は引っ張られるし、頭から水ぶっかけるし、真冬にベランダで正座させられました」

 母親について嬉しそうに莉乃は話す。まるで自慢の女友達のことを語るかのような口ぶりだ。それにしても母親がそこまで激昂するとは一体なにがあったのだろう。

「あたし、小学校のころからよく万引きをしてたんです。コンビニからドンキまで、お菓子からアクセまで色々。物が欲しかったのもあるけど、今よく考えたら別にほしくない物まで盗ってた。それって窃盗症っていうんですか? スリルがたまらなかったんですよね」

 幾度か補導され、そのたびに母親には容赦なく叱られた。

「こういうとナンだけど、親が夜の仕事してやっぱり寂しかったですよ。誕生日に一人で家にいて、お母さんがケーキだけ買ってきて『ごめんね』って言って仕事に行くんですよ。はあ〜ってなってた。クリスマスなんて絶対、一緒にいられないし、『夜、出歩けてラッキー♪』って思えるようになったのは結構経ってからですね」

 万引きこそやめたものの、莉乃は徐々に不登校になり、友人や彼氏の家に入り浸るようになる。なんとか受験はクリアしたものの高校はすぐに休学した。

「さすがに母親とは違ってバイクは後ろ専門だったし、あからさまなギャルとかヤンキーとかではなかったと思うんですよね〜。友達と一緒に酒飲んだり、彼氏の家でセックスしたり、他校の学祭に行ったりするのが楽しかった」

 親のいない寂しさ、親への反抗。その理由を考えると(それ自体が不毛かどうかは置いておいて)、そんな陳腐な言葉が浮かんでしまうものだが、莉乃は決してそれらを自らの不登校や万引き、いわゆる素行不良の原因とは認めない。

「ただ楽しいことをしたくて、友達といるのが好きだった。だからだんだんと授業もめんどくさくなっちゃって、あはは。あの人も元々ヤンチャだったし、あたしも同じ道を辿ってたんです」

 あの人、とは母親のことだ。

「だから、あの人は余計に厳しかったのかなって思うんです。『お母さんも昔そういうことしてた。だからこそ、今あんたに厳しくしているんだよ』そんな風に言われたからって当時はヤンチャするのをやめられる訳じゃなかった。そして『あたしの育て方が悪かったのかなあ』『若いころにあんたとお兄ちゃんを産んだからかなあ』とも言うんですけど、そんなことはないです。そんな風に思わせてしまったのは当時もすごく悲しく感じましたね」

 そんな思いを抱えながらも莉乃は、ことある毎に家出を繰り返すようになる。行き先は友人や恋人の家。様子を察知した母親はすぐに娘の携帯を止め、抜群の捜査能力で彼女を包囲し、連れ戻す。そんな日々がしばらく続いていた。

「高2の時、家出して連れ戻されて2週間くらい部屋から出させてもらえなかった。『顔も見たくない!』『娘とは思わないから』って言われて…元はと言えば自分が悪いんだけどキツかった。で、ある日、親がシャワーを浴びている隙に財布から3万円失敬して逃げましたね。そこから2年半、連絡もしなかったし、実家には帰らなかったです」

 ケータイと数枚の着替え、そして3万円が入った財布、まさに着の身着のままで莉乃は家を飛び出した。

「その後は、とりあえず男の家に行って、未成年ばっかり雇ってるキャバクラで働きました。寮もあったから」

生きるためにキャバクラ、ガールズバー、カラダも売った

 高校には母親が退学届を出した。

「こないだその頃の写真をみっけたんですよ、先月、実家で。見ます?」

 そう言って莉乃はiPhoneの画面を差し出してきた。そこには量産型キャバ嬢2人が映っていた。いわゆる一世を風靡した「age嬢」である。

「つか、Aちゃんはどっちよ?」

 思わず笑いながら私は聞いていた。

「こっち!」

 照れ臭そうに莉乃が右側を指差す。頬は今より少しふっくらとしているし、目元もやや腫れぼったいがそう言われてみると確かに莉乃だ。

「未成年キャバで働いていたけどすぐにガサ入ってソッコー逃げました。で、その後ちょうどすすきのにあるキャバグループを経営している社長さんに拾ってもらって。あ、体の関係はなかったです。ただ18歳になったら働くって約束でその店の寮に住まわせてもらいました」

 未成年キャバクラ、ガールズバー、ニュークラブ…生きるためにあらゆる仕事をした。時には体も売った。

「その頃、相場はホテル代別で2とかイチゴー(1.5万)かな。ナマだったら3万とか。出会い系のサイトで客を見つけていたけど、冷やかしも多くてマジふざけんなよってよく怒ってました。まあそうやってエンコーしてた時期があるからAVも抵抗なかったのかも」

 少しバツが悪そうに莉乃は打ち明ける。さすがに援交話は通常のインタビューではイメージもあるので話すことはしない。ちなみに当時の彼女の月収は平均3〜40万円ほど、20歳手前の女の子が札幌の街で遊ぶにはかなり贅沢な額だ。

「めっちゃ酒飲んでましたね」

 しかしそんなある日、ついに母親と対峙するときがやってきた。18歳になった莉乃が市役所で住民票の写しを取ったことをきっかけに、母親が居場所を突き止め、電話をかけてきた。ちょうど働いているガールズバーが開店する時刻だった。

「本当は自分がもう少ししっかりしたら謝りに帰ろうと思ってた時期だったから、母親の声を聞いただけで号泣してました。そんな私の様子に怒る感じじゃなくなって、これまでどうしたのか優しく聞いてくれましたね。そしてそのままゆっくり話して和解しました。もちろん言えない話も多かったけど」

ノリで始めたAV女優にプライドが芽生えてきた

 和解した母娘は頻繁に連絡を取り合い、こまめに顔を合わせるようになった。同居することはなかったが、ことあるごとに莉乃は帰省し、母娘は程度な距離で穏やかな関係を紡ぎ始めた。そうしている間に莉乃はスカウトされてAV女優となり、地元を離れることとなる。「都内ではキャバクラで働いている」と母には告げていた。

「デビュー作が出て半年したくらいかな。マネージャーさんたちと飲んでいたときに親から電話があったんです。ふっと思い出したように『そういえばまだキャバで働いているの?』って言われて。適当に答えてもよかったけど、ずっと隠し通せるものじゃないって思ってすぐに次の日、札幌に帰ることにしたんです」

 電話があった翌夜、彼女は母親のスナックにいた。

「で? で? 仕事って何よ?」
 そういう母親は自らの店のカウンター越しにニコニコと莉乃に話しかけてくる。営業時間が過ぎてもまだ客は来ていない。店には母娘の他に従業員の女性が一人いるだけだ。
「キャバクラじゃないんでしょ? グラビア? 風俗…じゃないよねえ」
 ややあって母親の顔は徐々に曇り始める。
「アダルトビデオじゃないよね…まさか」
 莉乃は首を縦に振る。
「うそでしょ」
 そう言って母親の顔は涙で歪んでいった。
「いつからやってるの?」「どうして出たの?」「いつまで続けるの?」
 極めて冷静になろうとしている一方で、母親の口からは次から次へと疑問符が放たれていった。

 そのとき莉乃はこう返したという。

「『理解してもらえないと思うけど中途半端にやってるんじゃなくて、どうせだったら有名になりたいと思っている。こんな職業で理解してもらえないと思うけど…』そう伝えました。母親には『こいつ、AVに堕ちたな』って思われたくなかったから」

 ノリで始めた仕事とはいえ、堕ちてはいない。そんなプライドがあったのだろうか。

「次の日の朝、起きたら本当に気まずくて。母親も私のサンプル動画を見たんでしょうね、げっそりしてました。『自分の娘の裸がいろんな人に見られてると思うと…』『あんたとどう接していいかわからないから、ちょっと帰って』と言われました。そう言われたらそのまま東京に戻るしかないですよね。そっからしばらく連絡を取らなかったです」

 その年は正月に帰省するどころか、メールも電話もしなかった。約半年の間、音信不通の状態が続いたもののある日、ふと酒を飲んでいたら母親の声が聞きたくなった。

「半年後に電話したときにはもう母親も冷静になっていました。『お母さんもいろいろ考えたけど、まぁもう大丈夫だから。もう受け入れたし、アンタもアンタで頑張りなさい』って言ってくれましたね」

 その後、帰省した際に実家のハードディスクレコーダーを見ると、莉乃が出演した地上波の正月特番が録画されていたという。お笑い芸人とAVアイドルたちがゲーム対決するバラエティ番組だ。

「連絡を取っていなかった間も母親は、あたしのツイッターやブログを見ていたんでしょうね」

 莉乃は苦笑いを浮かべる。

「面と向かって辞めろとは言わないけれど、まだ葛藤していると思います。でもその気持ちを抑えて、今こうやって接してくれているのは嬉しいし、ありがたいです」

「お金のため」じゃAV女優は続かない

 そこまでして今、彼女がAVの仕事を続ける理由は何だろう。

「ええーっ! わっかんない! でももうこれ以外の仕事してるのが想像つかないんですよね〜。最初はノリだったけど今はAVって軽い気持ちでやるもんじゃないと思ってる。そもそも頑張っている他の女優さんに失礼だし、このご時世に売れる作品を作るにはそんな適当じゃダメだし。最近いるんですよ、風俗をやっていて店での売り上げを上げるために1本だけやって辞めるっていう人。『現役AV女優』って肩書きがほしいから。正直そういうのすごいムカつくし、1本出たくらいでAV女優を名乗らないでほしい」

 ハッキリとした口調で莉乃は続ける。

「この仕事して泣いたことだっていっぱいあるし、仕事ぎゅうぎゅうのときは全然寝られないし。そういうときって夢でも現場にいるんです。気づいたら、『この後どうすればいいですか?』とかしゃべってる自分の声で夜中に目が覚めたり。寝ても覚めても仕事仕事。今はかなり撮影のペースも落ち着いたから、そんなこともなくなったけど一時期は結構、追い詰められました」

 聞くと莉乃にとってAVは、初めて「長く」続いた仕事だという。キャバクラやガールズバーに勤めていた頃は一つの店に半年以上、在籍したことがなかった。

「『必要とされている感』がお店とは違うんですよね。やりがい、みたいな感じかな」

 最後に恒例の質問を投げかけてみた。

「もし自分の子どもがAV女優になりたいと言ったらどうする?」

「『どうして出たいの?』ってまず聞きますね」

 そう言った後にしばしの沈黙が流れた。

「……やらせたくはないですよね。いやぁ〜やらせたくないなあ〜! あ、別に『娘の裸が他人に見られるから』みたいな理由じゃないです。というのも、こないだ一緒に面接に行った友達が彼氏に『AVに出ていたやつとは結婚できない』って言われてたんですよ。確かにそういう考えの人っているだろうし、隠していても限界あるじゃないですか。先のことまで考えると娘だったらやってほしくないなって思う。それはあたしが今、自分でもいろいろ感じているからこそ。これからどうしよっかな〜ってやっぱり考えちゃいますよ。まあムダに考えたり病んだりしないようにはしているけど」

「はあ〜」と大きなため息を莉乃がついた。

「やるな、とは頭ごなしには言わない。でも『お金のため』だけだったら反対する。『じゃあキャバや風俗で稼ぎなさい』って言うだろうな。だってお金のため、だけじゃ絶対に続かないから、AV女優は」

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